11月8日未明に愛知県知多市で震度5強を観測した地震について、気象庁は「南海トラフ地震とはメカニズムが異なる」と説明しています。
震源は南海トラフ地震の想定震源域の中ですが、規模はM5.7で、臨時情報の調査を始める基準のM6.8より小さい地震でした。さらに、巨大地震が起きるプレートの境界ではなく、プレートの内部で起きた地震と解析されています。
ただし、揺れの強かった地域では、1週間程度は同じくらいの地震に注意が必要です。
この記事では、次の3点を整理します。
- 臨時情報が出なかった理由と、出るときの基準
- 29年前に豊橋市で震度5強を観測した地震との共通点
- 震度5強がどれくらいの揺れか、これから1週間に気をつけること
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生 | 2026年11月8日 午前1時4分ごろ |
| 震源 | 静岡県西部、深さ41km(暫定値) |
| 規模 | M5.7(暫定値) |
| 最大震度 | 5強(愛知県知多市) |
| 津波 | 心配なし |
| 種類 | フィリピン海プレートの内部で起きた地震(速報) |
出典:気象庁「令和8年11月8日01時04分頃の静岡県西部の地震について」
南海トラフの臨時情報が出なかった理由
規模が基準に届いていないからです。気象庁が「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」を出して専門家の評価検討会を開く条件の一つは、監視領域の中でM6.8以上の地震が起きることです。今回はM5.7でした。
M6.8は、M7.0の地震を見逃さないように、速報の誤差を見込んで決められた数字です。
なお、気象庁の「南海トラフ地震に関連する情報」の発表履歴を11月8日朝に確認したところ、今回の地震による臨時情報は出ていません。最新の情報は10月7日の定例の評価でした。
M5.7とM6.8の差は、エネルギーで約45倍
マグニチュードは1大きくなると、地震のエネルギーが約32倍になります。この関係で計算すると、今回の地震と各基準の差は次のとおりです。
| 比べる地震 | 規模 | 今回(M5.7)との差 |
|---|---|---|
| 臨時情報(調査中)の基準 | M6.8 | 約45倍 |
| 2024年8月の日向灘の地震 | M7.1 | 約126倍 |
| 臨時情報(巨大地震警戒)の基準 | Mw8.0 | 約2,800倍 |
| 南海トラフ地震の最大クラスの想定 | Mw9.1 | 約12.6万倍 |
※エネルギーの比は「10の1.5×(マグニチュードの差)乗」で計算した目安です。Mw(モーメントマグニチュード)と気象庁マグニチュードは求め方が違うので、Mwとの比較はおおよその値です。
SNSでは「今回の揺れの強化版が南海トラフ地震なのか」という声もありました。数字で見ると、規模はまったく別物です。
臨時情報が実際に出た2024年との比較
臨時情報が初めて出たのは、2024年8月8日の日向灘の地震です。
| 項目 | 2024年8月8日 日向灘 | 2026年11月8日 静岡県西部 |
|---|---|---|
| 規模 | M7.1 | M5.7 |
| 最大震度 | 6弱 | 5強 |
| M6.8以上か | はい | いいえ |
| 発表された情報 | 臨時情報(巨大地震注意)。地震から約2時間半後の19時15分 | 臨時情報なし |
ただし、臨時情報はマグニチュードだけで決まるわけではありません。ひずみ計の異常や、プレート境界の通常と違う「ゆっくりすべり」が観測された場合も調査の対象です。
震源は想定震源域の中、でも仕組みが違う
「想定震源域の中なのに、なぜ関係が薄いのか」と疑問に思うかもしれません。ポイントは、地震が起きた場所と仕組みを分けて考えることです。
| 項目 | 南海トラフ巨大地震 | 今回の地震 |
|---|---|---|
| 起きる場所 | フィリピン海プレートと陸のプレートの境界 | 沈み込んだフィリピン海プレートの内部 |
| 仕組み | 境界がくっついてたまったひずみが、一気にずれる | プレートが引っぱられる力で壊れた(張力軸が東北東―西南西) |
| 規模 | M8〜9クラス | M5.7 |
気象庁は、この地震の規模から「南海トラフ沿いのプレート間の固着状態の特段の変化を示すものではない」としています。一方で、記者会見では「安易に安心できるフェーズではないが、過度に恐れなくてもいい」とも説明しています。
今回の地震が前兆とは言えないことと、南海トラフ地震への備えが必要なことは、両立します。南海トラフ地震は、臨時情報が出ないまま突然起きることもあります。
29年前の豊橋の地震とよく似ている
愛知県で震度5強以上を観測したのは、1997年3月16日以来です。この1997年の地震は、今回とよく似ています。
| 項目 | 1997年3月16日 | 2026年11月8日 |
|---|---|---|
| 震源 | 愛知県東部 | 静岡県西部 |
| 深さ | 39km | 41km(暫定値) |
| 規模 | M5.9(当時の発表はM5.8) | M5.7(暫定値) |
| 最大震度 | 5強(豊橋市) | 5強(知多市) |
| 種類 | 沈み込んだフィリピン海プレート内の地震 | フィリピン海プレート内部の地震 |
| 力の向き | 張力が北東―南西の正断層型 | 張力軸が東北東―西南西 |
地震調査委員会は1997年の地震について、発震機構は「この震源付近では、従来からよく見られる型」と評価しています。余震は直後に多く起きましたが、その後は順調に減り、最大の余震は本震の2分後のM4.3でした。
同じ評価では、その南東約15kmの浜名湖北岸でも、1983年3月に深さ40kmでM5.7の地震が起きたと記録されています。気象庁によると、このあたりではM6程度の地震が10〜20年に1回ほど起きていて、2018年10月と2020年9月にも同じくらいの深さでM5程度の地震がありました。
つまり今回は、この地域で繰り返し起きてきた型の地震と考えられます。ただし、過去に似た経過だったからといって、今回も同じ経過になるとは限りません。
「名古屋はあまり揺れない地域なのか」
SNSでは「人生でいちばん揺れた」という声が多く見られました。名古屋大学の福和伸夫名誉教授は、愛知県はこの30年間「国内で最も揺れていなかった」と中日新聞に話しています。揺れに慣れていない人が多い中での震度5強だったと言えます。
震度5強はどれくらいの揺れか、6弱との違い
気象庁の震度階級関連解説表をもとに、5弱から6弱までを並べます。
| 震度 | 人の感じ方 | 家の中 | 耐震性が低い木造住宅 |
|---|---|---|---|
| 5弱 | 大半の人が恐怖を覚え、物につかまりたいと感じる | 食器や本が落ちることがある。固定していない家具が動くことがある | 壁に軽いひび割れが出ることがある |
| 5強 | 物につかまらないと歩くのが難しい | 落ちる食器や本が多くなる。テレビが台から落ちることがある。固定していない家具が倒れることがある | 壁にひび割れが出ることがある |
| 6弱 | 立っているのが難しい | 固定していない家具の大半が動き、倒れるものもある。ドアが開かなくなることがある | ひび割れが多くなる。瓦が落ちたり、傾いたり、倒れたりすることがある |
5強と6弱の境目は、「歩くのが難しい」か「立っているのが難しい」かです。建物の被害も6弱から大きくなります。気象庁の表では、耐震性はおおむね1981年以前の建物で低く、1982年以降で高い傾向があるとしています。
今回も、テレビが落ちて足をけがした、避難しようと階段で転んだ、といったけがが報じられています。けがの多くは、揺れそのものより、落ちてくる物や慌てた行動で起きています。
震源から離れた知多市が強く揺れた理由
震度は震源からの距離だけでは決まりません。福和名誉教授はCBCテレビの取材に、知多市は海辺のすぐ後ろに山があり、柔らかい地盤が薄めにあるため、ガタガタした揺れで大きく揺れやすいと説明しています。気象庁の発表では、知多市の揺れについての個別の解析は示されていません。
これから1週間に気をつけること
気象庁は、揺れの強かった地域では地震から1週間程度、最大震度5強程度の地震に注意するよう呼びかけています。特に2〜3日程度は、規模の大きな地震が起きることが多いとしています。
| 期間 | 目安の日付 |
|---|---|
| 特に注意(2〜3日程度) | 11月10日〜11日ごろまで |
| 注意(1週間程度) | 11月15日ごろまで |
これは地震の起きる日を予測したものではありません。気象庁が示した期間を、11月8日午前1時4分から数えた目安です。過去の事例で同じくらいの地震が起きた割合は1〜2割で、今回の地震の確率を個別に計算したものではありません。
今夜からできること
- 倒れやすい家具やテレビがない場所で寝る
- 枕元にライトとスリッパを置く(割れたガラスでのけがを防ぐ)
- テレビや本棚を固定する
- 揺れている間は外に飛び出さず、頭を守る
枕元のライトとスリッパは、気象庁の担当者が会見で挙げたものです。
知多市は雨にも注意
知多市では、地震で地盤がゆるんでいる可能性があるため、土砂災害の警報や注意報を出す基準が、当分の間、通常の8割に引き下げられています。いつもより少ない雨で警報が出ることがあります。
ここからは私の見方です。今回の地震で「南海トラフが来る」と不安になるのも、「関係ないなら大丈夫」と安心するのも、どちらも行き過ぎだと思います。29年前の地震と同じ型で、規模も基準よりずっと小さい。そのうえで、愛知が30年近く大きく揺れていなかったという事実のほうが重要です。家具の固定や備蓄を見直すなら、揺れを体で覚えている今が一番動きやすいタイミングです。
まとめ
11月8日の愛知の震度5強は、南海トラフ地震の前兆と言える材料は今のところありません。
- M5.7で、臨時情報の調査を始める基準のM6.8より小さい(エネルギーで約45倍の差)
- 巨大地震が起きるプレート境界ではなく、プレート内部の地震
- 1997年の豊橋の地震と同じ型で、この地域で繰り返し起きてきた地震
- 11月15日ごろまでは、震度5強程度の地震に注意
この記事は2026年11月8日時点の情報です。気象庁の発表が更新された場合は、追記します。
出典
確認日はいずれも2026年11月8日です。
- 気象庁 令和8年11月8日01時04分頃の静岡県西部の地震について
- 気象庁 土砂災害に関する警報等の暫定的な運用について
- 気象庁 「南海トラフ地震に関連する情報」について
- 気象庁 南海トラフ地震に関連する情報(発表履歴)
- 気象庁 南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)について(2024年8月8日)
- 気象庁 震度階級関連解説表
- 気象庁 愛知県東部の地震(平成9年)
- 地震調査研究推進本部 1997年3月16日の愛知県東部の地震について
- 中日新聞 気象庁「南海トラフ地震とメカニズム異なる」
- CBCテレビ なぜ愛知・知多市で5強?専門家に聞く
更新履歴
2026年11月8日 公開